【獣医師監修】猫の下部尿路疾患とはなにか?概要や原因について解説
猫の『下部尿路疾患』という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
猫の下部尿路疾患とは、膀胱から尿道にかけての『下部尿路』に生じる疾患の総称であり、膀胱炎や尿道閉塞などがこれにあたります。腎臓から尿管にかけては、上部尿路と呼ばれます。
この下部尿路疾患は、猫に多発する病気であり、適切な管理が必要となります。
そこで、この記事では猫の下部尿路疾患について、原因や症状、治療法や予防法などをお伝えしています。
「愛猫がトイレに行く回数が増えたな…」「おしっこがキラキラしている…」など、猫のおしっこについて、不安のある飼い主さんは、ぜひ読んでみてください。
1.猫の下部尿路疾患とはなにか?概要や危険要因について
猫の下部尿路疾患とは、膀胱から尿道にかけての病気のことを言います。
病気の一例としては、膀胱炎や尿道閉塞、尿石症などがあります。
膀胱炎は、字の通り、膀胱に炎症が生じる病気です。猫では、細菌感染によるものより、ストレスで生じる膀胱炎が多いです(犬では細菌性の膀胱炎が多発します)。
尿道閉塞は、尿道が結石や炎症産物などでつまってしまい、おしっこが出せなくなる病気です。ほとんどがオス猫で生じ、冬場の飲水量が減ってしまう時期に多発します(そのほかの時期でもなります)。
尿石症は、膀胱などに結石が生じる病気で、ストルバイト尿石症とシュウ酸カルシウム尿石症がよく見られます。
結石症の主な原因として考えられているのは、日々の食餌や細菌感染などにより、尿のpHバランスが崩れることです。犬猫ともに正常な尿のpH値はph6.5前後の弱酸性であるといわれています。
尿の正常値よりもpHがアルカリ性に傾くと「ストルバイト尿石症(リン酸マグネシウムアンモニウム)」、酸性に傾くと「シュウ酸カルシウム」の結晶や結石ができやすくなります。
結晶や結石の主な成分となるのは、カルシウムやリン、マグネシウムなどです。
ストルバイトは治療をすれば溶けるタイプ、シュウ酸カルシウムは一旦結晶化すると溶けないタイプです
いずれも食事療法が必須となります。
これらの下部尿路疾患は、若齢よりも中高齢以降でなりやすく、肥満や運動不足などは病気の危険因子となります。
2.猫の下部尿路疾患の症状
症状としてよく見られるものは、
・血尿(ピンク色の尿、ドロッとした血が出ることもある)
・頻尿(何度もトイレに行く、いつもトイレにいるなと感じる)
・トイレに行くけど出ない(数滴しか出ない)
・トイレの中で寝ている
・尿がキラキラしている
などがあります。
また、『何となく元気がない…』『何となく食欲がない…』といったわかりにくい症状である場合も多いですね。
重度の場合には、嘔吐や下痢などの消化器症状、また、排尿ができずに痛みを生じるため、「ギャー」と奇声を発するといったこともあります。
猫の下部尿路疾患の中でも、特に尿道閉塞は緊急性がある病気であり、すぐに処置をしないと、命にかかわることもあります。
3.猫の下部尿路疾患の診断法
診断にあたっては、尿検査がとても重要となります。
pHや比重(尿の濃さ)、結石(結晶)の有無などを調べることができます。
また、細菌感染が疑われる場合には、外注検査(外の検査センターに依頼)に尿を提出して、菌の同定と、どんな薬剤が効くのか?を調べることもできます。あわせて、血液検査や各種画像検査(レントゲン検査や超音波検査など)も行います。
併発疾患がないかどうか?(腎臓が悪くなっていることもよくあります)、また、結石がある場合には、所在を確認するようになります。
4.猫の下部尿路疾患の治療法
治療法は原因によって異なります。
また、急性の症状がある場合には、まずはそちらの解決を試みます。
すなわち、尿道閉塞がある場合には、尿道からカテーテルを入れるなどして、解除を行います。
結石がある場合で、溶けない石のときやあまりにも大きい場合、緊急性がある場合などは、外科的摘出を行います。腎臓の数値が悪くなっているときには、点滴にて経過観察を行います。
ほかにも、会陰尿道瘻(えいんにょうどうろう)といって、オス猫の陰部を大きくする手術を行い、尿を出やすく手助けすることもあります。
維持療法としては、食事の変更や薬の投与などが基本となります。
食事は、ストレスを緩和するタイプのもの、結石を溶かすものなどさまざまあり、獣医師の指示のもと使用をします(療法食と言います)。
飼い主さんの独断にて食事の選択をすることで、病気がより悪くなってしまうことはしばしばあります。
食事を選ぶ際は、必ず主治医の先生に確認をしましょう。
薬は、炎症をひかせることや、疼痛の緩和を行うために使用し、細菌感染がある場合には、抗生物質の投与も行います。
病気によっては、サプリメント投与や皮下補液(背中の部分に液体を入れて、体循環・尿量増加を促す)なども行います。
5.猫の下部尿路疾患の予防法と管理方法~飼い主さんができること
猫の下部尿路疾患においては、その予防が非常に重要です。
以下では、今日からお家でできる方法をお伝えします。
5.1.飲水量を増加させる
飲水量を増加させることで、尿量の増加を期待することができます。
つまり、尿量を増加させることで、結石のもととなる結晶を排せつさせることで循環をよくすることができます。
一番簡単なのは、ウェットフードを用いることです。ドライフードには通常8~12%の水分が含まれていますが、ウェットフードはその成分の78~82%程度が水分であるため、手軽に飲水量アップへ貢献します。また、嗜好性もよいことから、愛猫の食いつきがいいことも特徴です。
ウェットフードを効果的に与えることで、尿の酸性化を助けてくれる可能性があります。
ほかにも、ドライフードを水でふやかす、ウォーターファウンテンを用いる、いろいろな容器(陶器製、プラスチック製)を用いる、部屋のさまざまな場所にお水を配置するなど、多くの水分を接種できるような工夫をしてみるといいですね。
なお、心臓病などで利尿剤が処方されている子においては、飲水制限がある場合もあります。
一般的に、利尿剤とは、尿量を増加させ、体内の不要な水分の排泄を促し、血圧を下げる効果や、むくみなどを軽減するためのお薬です。利尿薬は、体に溜まった水分を外に出すことで、心臓にかかる負担を減らします。
心臓病などで体の中に水が貯まり過ぎている状態を改善するために、利尿剤を処方しているため、水分摂取はとても危険です。
なにか持病がある場合や気になる症状がある場合には、ぜひ主治医の先生に相談してみてください。
5.2.獣医師の定期的な診療~尿検査なら簡単!
定期的に健康診断を受けることは、猫の下部尿路疾患を予防するうえで極めて重要です。
ただ、猫ちゃんの場合には、動物病院に行くことがストレスになる子が多くいます。特に症状もないのに、無理に連れていくことで、病院嫌いになるだけでなく、食欲低下などを引き起こしてしまう子もいます。
そのため、猫を動物病院に連れて行かずとも、簡単にできる検査である『尿検査』をおすすめいたします。
一般的に、精密検査でない場合には、自宅で採尿した尿で検査が可能です。
システムトイレの場合には、シートを取り除くことで簡単に採尿ができますので、ぜひ定期的(できれば2,3カ月に1回程度)に行ってください。
6.【まとめ】猫の下部尿路疾患の症状や診断、治療法について
猫の下部尿路疾患とは、膀胱と尿道に生じる、猫の泌尿器トラブルのことです。
血尿や頻尿が見られることが多く、症状の進行に合わせて、元気や食欲がなくなることもあります。
診断は、尿検査を基本として、血液検査や画像検査を行っていきます。
治療法は病気によって異なりますが、食事療法や投薬治療がメインとなります。
飲水量の増加と、定期的な尿検査は、猫の下部尿路疾患の予防をすることができます。
今日からできますので、「愛猫といつまでも一緒に過ごしたい!」という飼い主さんは、ぜひ行うようにしてみてください!